コラム 第6回
The History of Zome System
   〜 ゾム誕生 〜

米国ゾムツール社
JZC事務局

数学的森羅万象とでもいうべきものが,私たちのまわりのいたるところに存在しています。
 
新しい発想,形,法則などが,文明の進歩によって発見されるのを待っているかのように存在しているのです。まさに,それを見つけて,そこから引き出してくれる人間を待っているのです。

スティーブ・ベイヤー(Steve Baer)は,そういう選ばれた人間のひとりでした。
 
ベイヤーは,建築家バックミンスター・フラー(R. Buckminster Fuller)によって発表されたドーム幾何に触発されました。彼は,1960年代前半に時折,トリニダード(コロラド州)近くの実験都市,ドロップ・シティ(Drop City)を訪れました。ドロップ・シティの創設者たちの中には「ドロップ芸術家」のクラーク・リチャート(Clark Richert),ジーンおよびジョアン・ベルノフスキー(Gene and Jo Ann Bernofsky)たちがいました。

 この実験都市を計画する中で,彼ら創設者たちは,ドーム構造により居住空間を構築することを考えました。その場合,床は円形になり,多種類の異なった長さの梁とジョイントが,大量に必要です。 それらは非常に複雑な構造となり,何らかの理由で,それらの形を少しでも変えようとすると,根本から,すっかり構造を変えなくてはなりませんでした。

 スティーブ・ベイヤーは,チューリッヒ在住時に,妻が子供の玩具で菱形面の立体を作ってやったのを見て以来,多面体に関心を持つようになりました。そして,ついに,少ないパーツで非常に多様な図形を作成することができる新しいシステムを発明しました。

 「ゾム(Zome)」という名前は,ベイヤーとラマ・ファンデーション(the Lama Foundation)のスティーブ・ダーキー(Steve Durkee)の二人により命名されました。ラマ・ファンデーションは,ベイヤーのドーム解説書を最初に出版した会社です。実験都市のドームは,このゾム理論により,真にジオデシックではないがそれに近いものとしてデザインされました。そして,それを使って独創的な形の家がデザインされたのです。ゾムを使って組み立てることの大きな利点は,追加構築が比較的容易に行えるようになったことでした。

 ドロップ・シティの建設に使われたこの小さな「ゾム」は,今や,この実験都市とともに無くなってしまったのですが,コラレス(ニューメキシコ州)にあるベイヤーの現在の家は,このゾム理論を用いて建てられました。

 ゾムワークス(Zomeworks)社が,1969年に設立され,「ゾムトイ・モデル・セット(the Zometoy modeling sets)」を製品化するために投資されました。このゾムトイは,1969年から1970年にかけて,ゾムワークス社とスタンリー・マーシュ三世(Stanley Marsh III,テキサス州アマリロ)の両者によって開発され,特許が取得されました。この当時のゾムトイは,プラスチック製ボール・ジョイントと木製ダボのストラットを使用していました。 そして,これは,1971年のニューヨーク玩具フェアで展示されました。しかし,形は現在のゾムとほぼ同じに作られていましたが,作りそのものが,かなり粗雑で扱いにくいものでした。

1979年,マーク・ペルティエ(Marc Pelletier)とポール・ヒルデブラント(Paul Hildebrandt)という二人の才能の運命的な出会いがありました。
 
マーク・ペルティエは幾何学者であり,スティーブ・ベイヤーの業績に対する熱心な支持者でした。また,ポール・ヒルデブラントは新しい家屋構造を開発することに強く関心を持っていました。この二人の才能の見事な調和によって,ゾム幾何の驚異である,あの「不可思議な」コネクター・ボールが開発されることになったのです。

 彼らは,未来の建築家・科学者・技術者である子供たちの想像力をかきたてる玩具の開発に着手しました。目標としては,6歳の子供でも,ゾム幾何に触れることのできるようなものを目指しました。彼らは,幾何学というものが,人間の心の内にある形から宇宙空間の構造物まで,私たちの住む世界の形そのものを変化させるものだということを知っていました。そうして,彼らは,ボールダー(コロラド州)で仕事を開始しました。

 10年以上の時が流れました。彼らは,独創的なデザインのコネクター・ボールを考案しました。また,子供でも大人でも簡単に扱えるようにするため,特定の形と色をしたストラットのセットを考え出しました。あとは,彼らのアイデアを買い取り,それを製造してくれる人物を見つけるだけでした。

 彼らのコネクター・ボールの設計図を見た玩具メーカーは,笑って,これの成形は不可能だと言いました。ペルティエとヒルデブラントは設計図を持って世界中を飛び回りました。しかし,ドイツや日本のメーカーでさえ,黙って首を横に振るだけでした。アメリカでは,より悲観的な状況でした。自分たちの仕事の重要性を認識していたペルティエとヒルデブラントは,ついには,自分たち自身で射出(インジェクション)成形の技術を学ぶ決心をしたほどでした。

1988年,ついに,ボブ・ニッカーソン(Bob Nickerson)が,この挑戦を引き受けることになりました。
 
ボブ・ニッカーソンは,デンバー(コロラド州)の機械エキスパートでした。ペルティエとヒルデブラントの設計図を一目見た彼は,二人に,自分ならこの「不可能な」玩具を作れるだろうと言いました。こうして夢が復活したペルティエとヒルデブラントは,ゾムを製造販売するために,バイオクリスタル社(BioCrystal, Inc.)を設立しました。史上最も複雑なプラスティック射出成形パーツを作り出すためには,さらに数年の月日を要しましたが,コロラド大学からの古い射出成形マシンの寄付もあって,ついにすべてが完成し,試験運転の準備ができました。

 最初のボールは,まさに第一回目にして,完全な姿で出てきました。こうして,まったく新しいスタイルの玩具が誕生したのです。時は,1992年4月1日のことでした。

 完成してしばらくの期間,ゾムは世間一般には公表されませんでした。しかし一方で,数学者や科学研究者には注目されていきました。彼らはすぐにゾムの有用性に気付きました。ゾムのシステムは,黄金比および2分割・3分割・5分割の対称性の数学に基づいており,驚くほど多様な科学的研究に適用可能でした。ライナス・ポーリング(Linus Pauling,ノーベル化学賞・平和賞受賞)も研究に使いました。NASAも宇宙ステーション・プロジェクトの中で,宇宙におけるエイズ・ウィルスの研究のために使い始めました。

 ゾムは,1980年代半ばに準結晶というものが発見されてから今日にいたるまで,それをモデル化することが可能な唯一のシステムです。この準結晶というのは,無機結晶とも言い,5分割対象性があり,それまでは表現することが非常に困難なものでした。数学者である,オクスフォード大学のロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)やプリンストン大学のジョン・コンウェイ(John Conway)は,ゾムを使って,複雑な幾何学図形を作りました。

 数年間,ペルティエとヒルデブラントは,ゾムのそもそもの対象者,即ち,子供たちの手元に届ける方法を検討しました。そのためには,ゾムが他のどの組立玩具とも,まったく異なっていることを,親や教師に分かってもらうためのデモンストレーションが必要でした。結局,そのために,それに専念できる協力者をさがすことになりました。

1996年,彼らは「ゾムツール販売会社(Zometool Marketing, Inc.)」を設立しました。
 
ヤス・キザキ(Yasu Kizaki)という国際マーケティングのスペシャリストが,ある見本市でゾムに出会い,すっかりその虜になりました。彼とその協力者,エリザベス・モンタナ(Elizabeth Montana)は,この素晴らしい玩具をより広い市場に売り出すことに力を注ぐ決心をしました。彼らは,アメリカ国内および国際的に,ゾムの販売を大きく拡大しました。

1997年,二つの会社が統合され「ゾムツール社(Zometool, Inc.)」となりました。
 
ゾムツール社は,この素晴らしい玩具の名を世界の隅々まで行き渡らせることに成功しました。

2000年,ゾムに重要なコンポーネントであるグリーンラインが加わりました。
 
グリーンラインは,1970年代に,前述のクラーク・リチャートによって,スティーブ・ベイヤーの31軸システムに,初めて組み込まれました。ほとんど同時期に,それとは別にパリにおいて,今は亡き芸術家,ジャン・ボードイン(Jean Beaudoin)が15のブルーラインに関連付けられる30のグリーンラインを発見していました。ゾムのグリーン・ストラットは,パリにおいて,このジャン・ボードインとファビン・ヴィエンヌ(Fabien Vienne)によってデザインされました。

 二人の数学者,ジョージ・ハート(George Hart)とヘンリ・ピキオット(Henri Picciotto)が,「ゾム幾何(Zome Geometry)」というタイトルの上級幾何学の書籍を共同執筆し,2000年10月に出版しました。これは,グリーンラインを含む初めての出版物です。このグリーンラインの導入により,一個のコネクター・ボールにおける差し込み方向が,62から一挙に121に拡張されました。これにより,それまで以上に,より面白い形,より複雑なモデルが構築可能になったのです。

今日では,世界中に,あらゆる年齢の何万ものゾム・ファンが存在します。
 
そして,古代ギリシャ幾何学から現代量子物理学まで,また,体内宇宙から地球外宇宙まで,ゾムは21世紀における空間表現の基礎となりつつあるのです。

極めて高度ではあるが,使うのは簡単,ゾムはすべての人々に満足を与えます。

ゾムは,あなたの心の構造そのものを変化させることでしょう。

※ この記事は,米国ゾムツール社サイトの「The History of Zome System」を翻訳したものです。原文はこちら