コラム 第8回
四次元サッカーボール作成記
〜 ジョージ・ハート博士ワークショップより 〜



JZC事務局 編

 このワークショップの模様はジョージ・ハート博士のサイトにも掲載されています。下記を御覧ください。
http://www.georgehart.com/Japan/

 2008年1月6日,京都大学総合博物館ロビーにて,ジョージ・ハート博士(ニューヨーク州立ストーニー・ブルック大学教授)による「数学と芸術」のワークショップが開催されました。午前の部は,「形の科学会」や「ジャパン・ゾム・クラブ」の会員等,やや専門性の高い人々が対象,午後の部は,中学生以上の一般の方が対象でした。午前の部で本題の四次元サッカーボール,午後の部で三次元のサッカーボールを作成しました。本稿では,話の展開上,午後の部,午前の部の順に報告を進めていくことにします。

 午後の部の参加者は約30名,予定時刻を遅れて午後1時30分より始まりました。通訳および補足説明をされる京都大学人間・環境学研究科准教授の立木秀樹先生によりジョージ・ハート博士の紹介があり,早速実習が始まりました。

 最初にホワイトボードを使って立方体の絵を描き,その各頂点を各辺の三分の一の点を通る平面で切ると正三角形の面が現れることが示されました。もとの正方形の面は,四隅を切り取られて正八角形になります。ちなみに,この正三角形と正八角形で構成された立体を切頂六面体(クリックすると図が表示されます)といいます。

 次に,正二十面体の絵を描きます。正二十面体は正三角形20個から構成される正多面体の一つです。(詳しくはコラム第4回「正多角形と正多面体の話」を御覧ください。)この時ゾムで作った正二十面体が見本として示されました。


「これが正二十面体です。」
※ 写真をクリックすると拡大表示されます。

 ここで,正二十面体の各頂点を各辺の三分の一の点を通る平面で切ると正五角形が現れます。正二十面体の頂点の数は12ですので,全部で12個の正五角形が現れるわけです。もとの20個あった正三角形の面は角を切り取られて正六角形になります。この正五角形と正六角形で構成された立体が,切頂二十面体,すなわち三次元のサッカーボールです。この形は,炭素の同素体でフラーレンとよばれる物質の分子構造でもあります。右の写真はゾムで作った切頂二十面体です。


切り口は正五角形

ゾムで作った三次元サッカーボール

 図による説明の後,いよいよ実物の作成にとりかかります。今回は,この切頂二十面体をCDを使って作ります。用意された色とりどりのCDを,それぞれの参加者が,まず,五角形の形にケーブルタイで結合していきます。CDとCDの間には,裏向きにしたCDを配します。こうしてできた五角形を,さらに,その五角形の各辺が六角形を作るようにつなげていきます。


まず,CDを五角形につなぐ

五角形同士を六角形を作るようにつなぐ

 後半の作業は,会場の2本の柱の間に張られたロープにつるして行いました。こうして,CDでできたサッカーボールが完成しました。なお,このサッカーボール,CDの自重により数日間で割れて壊れてしまうようです。すでにもう割れ始めたCDがありました。折角の労作が永久保存できないのは少し残念です。以上が,午後のワークショップの内容です。


完成した三次元サッカーボール

 午前の部は約40名の参加で,午前10時少し前に始まりました。ハート博士は,世界中の各地でゾムを使って巨大立体を作成するワークショップを開かれています。今回,作成するのは,切頂600胞体,名付けて「四次元サッカーボール」です。最初に,ゾムで作った正600胞体が提示されました。


正600胞体(三次元への投影図)

 これは四次元正多胞体の一つです。正多胞体とは四次元における三次元の正多面体にあたる超立体で,次の6種類があります。

正五胞体(三次元の正四面体に相当。5個の正四面体で構成。)

正八胞体(三次元の正六面体に相当。8個の正六面体で構成。この超立体については,コラム第2回・第5回「四次元キューブを作ろう」を御覧ください。)

正十六胞体(三次元の正八面体に相当。16個の正四面体で構成)

正二十四胞体(三次元には該当する立体なし。24個の正八面体で構成)

正120胞体(三次元の正十二面体に相当。120個の正十二面体で構成)

正600胞体(三次元の正二十面体に相当。600個の正四面体で構成)

 いずれも四次元立体(超立体)なので,我々が住む三次元には正確に表すことはできません。このゾムで作ったボールのような正600胞体というのも,実際は三次元への投影図(例えれば,絵に描いた正二十面体)ということになります。

 今回の「四次元サッカーボール」は,この正600胞体の各頂点を,各辺の三分の一の点を通る四次元平面で切ったものです。切り口は,(三次元の住人である我々には不思議な話ですが)正二十面体になります。もとの600個ある正四面体は,角を切り取られて切頂四面体になります。

 三次元の正二十面体の各頂点を切断したものが(三次元)サッカーボールですから,四次元の正二十面体にあたる正600胞体の頂点を切断したものは四次元サッカーボールということになるわけです。

 さて,実習は5・6人ずつ6つのグループに分かれて行います。実習の第一段階として,ゾムに初めて触れる参加者のために屋根付き立方体と,正二十面体を作成する練習をしました。この練習で作成した正二十面体の一つは,正600胞体の中心にある頂点の切断面として,四次元サッカーボールの中心に使用します

練習で作った屋根付き立方体

この正二十面体を正600胞体の中心に使う

 今回の作成手順は,切断面となる正二十面体を必要数だけ先に作成しておき,それを切頂四面体でつなぐように組み立てていきます。

 第二段階として,正二十面体を少し歪めた二十面体を各グループ2個ずつ,合計12個作成します。これは,中心から少し外れた頂点の切断面です。正二十面体が中心からずれると歪むのは,四次元の立体を三次元に投影しているためです。これは,絵に描いた(三次元)サッカーボールで周辺の正五角形や正六角形が歪むのと同じことです。


少し歪んだ二十面体(出来をチェックするハート博士)

左の二十面体を12個作る

 第三段階は,さらに歪んで平たくなった二十面体を12個作成します。


第三段階の二十面体

左の二十面体を12個作る

 第四段階は,さらにさらに平たくなった二十面体を20個作成します。


第四段階の二十面体

左の二十面体を20個作る

 第五段階は,歪みのため完全に平面化した二十面体を各グループ毎に5個ずつ合計30個作成します。


完全に平面化した二十面体(30個作成)

左の図形は上記正二十面体を平面化したもの

 これで,すべての切断面が完成です。正600胞体の頂点は120個あるので,その切断面である正二十面体も120個必要なはずですが,それより少ない(1+12+12+20+30=75個)のは,三次元に投影した際に重なって見えなくなる部分があるためです。第五段階の平面化した二十面体以外のもの(1+12+12+20=45個)は,四次元空間上で裏側になるため重なって見えなくなっています。これも,絵に描いた(三次元)サッカーボールで裏側の図形が見えないのと同じことです。

 さて,いよいよ二十面体をつなげて組み上げていきます。初めに中心に位置する正二十面体の周りに,第二段階の二十面体をつなげます。

 ここで,問題が発生しました。ゾムのストラット(棒状のパーツ)には,旧バージョンと新バージョンがあり,これが今回入り混じってしまっていました。旧バージョンのストラットは,先端のジョイント部分が短く,結合力が弱いのです。そのため,中心から周りに組み上げていく方法では,すぐに外れてしまうのです。


正二十面体に第二段階の二十面体をつなぐ

旧バージョンのストラット(各色の左)は結合力が弱い

 そこで,ハート博士が熟慮の結果,中心から外へではなく,下から上へ組み上げていく方法に変更することになりました。


下から組み上げる手順に変更

ハート博士の指示でどんどん組み上げていく

 完成する立体の直径は大人の身長ぐらいになるため,上部の組立は背の高い男性と脚立にのったハート博士が行います。


ようやく半分!

もっとも難しい最上部の二十面体を取り付ける

 最初のハプニングがあったため,予定時間の2時間内に出来上がるかが大変不安になってきました。


よし! これでOK!

ほぼ出来上がり

 しかし,ハート博士の的確な指示と参加者全員のチームワークにより,何とか約1時間遅れで完成することができました。完成の瞬間には全員の拍手喝采が沸き起こりました。

 作業に要した時間は約3時間,使ったゾムのパーツ数はノード(ボール状のパーツ)780個,ストラット赤432個,黄720個,青600個の計2532個でした。


完成の瞬間!

参加者全員で記念撮影

完成した四次元サッカーボールと正600胞体

ハート博士と宮崎興二博士(JZC会長)

 完成した「四次元サッカーボール」は,京都大学総合博物館のロビーに置かれることになりました。


夕日をバックに

京都大学総合博物館に置かれることになった。
(左端奥に見えるのが四次元サッカーボール)

 なお,上記ワークショップおよびその前日に開催された講演会の様子を,参加されたJZC会員,日野様・渡辺様がゾム・メーリングリストに報告されています。下記を御覧ください。
[zome.jp-ml:0195] ワークショップに参加しました
[zome.jp-ml:0197] ワークショップに参加しました
 イメージミッション木鏡社(ゾムツール社日本総代理店)の前畑典子社長による手記も公開されました。下記をご覧ください。
http://www.imagemission.com/200801schule/200801schule.htm
http://www.imagemission.com/200801workshop/200801workshop.htm

 また,今回作成した切頂600胞体(四次元サッカーボール)についての詳しい説明が,京都大学の立木秀樹先生のホームページに掲載されています。下記を御覧ください。
http://www.i.h.kyoto-u.ac.jp/~tsuiki/

 さらに,「四次元サッカーボール」の回転・拡大表示できる3D画像(VRML)を御覧いただけます。「ゾム VRMLギャラリー」へお越しください。

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